A:飛竜の君主 ワイバーンロード
ドラゴン族は、成長の過程で形態を変え「進化」するそうだ。
そんなドラゴン族の中でも、飛行能力に特化して進化したものを、ワイバーンと呼ぶ。
力強さの点では、屈強な四脚のドラゴン族に劣るが、飛行速度や旋回力は、飛空艇すら圧倒するほど……。
特に長命な「ワイバーンロード」ともなれば、対竜カノン砲の砲弾さえ、回避するらしい。挑戦するつもりなら、気を付けることだ。
~クラン・セントリオの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
「来たぞ!よく狙え!」
指揮官の怒声が飛ぶ。猛スピードで迫る飛竜に向けて横並びに据えられた砲身が一斉に動く。
「速いっ」
ヒラヒラと左右に揺れるように舞う飛竜を追って砲身も落ち着きなく左右にフラフラと動く。
「撃てー!」
号令が響き渡る。
ズラっと並んだ砲身が一斉に火を吹き対竜カノンが撃たれる。
するとそのワイバーンは蝶が舞うようにヒラヒラと不規則に揺れたかと思うと、今度は風に巻かれた凧のようにクルクルと舞いながら飛び交う砲弾の中をスルスルと見事に縫うように飛んで見せた。躱された砲弾は飛竜の遥か後方で轟音をたてて破裂し煙になる。
悠々と飛んでいた飛竜は向きを変え、更に急降下すると城壁の上に据えられた砲台スレスレをなぞるように飛びながら火炎放射器のようにゴォーっと口から炎を吐いて城壁と平行に飛び、また上空へと飛び去って行く。城壁の上は瞬く間に火の海になった。火だるまになった砲術兵がバラバラと城壁から城内に落ちていく。
「なんだ、あの飛竜の動きは。あんな動き…有り得るのか?」
砲台の陰に転がり込みなんとか火炎放射から逃れた兵士長は空高く舞い上がった飛竜を睨みつけて言った。
兵士長に寄り添うようにして砲台の陰に隠れていた老兵が立ち上がって旋回する飛竜を見つめている兵士長を見上げながら言った。
「あれがワイバーンロードでさ」
兵士長はバイザーを上げた老兵の顔を見てから、もう一度飛竜を見上げる。
「あっしも見るのは二度目ですがね、この世で一番人を焼き殺している飛竜でさ」
竜詩戦争で戦う騎士なら一度ならずともその伝説は聞いたことがある。通常短命(と言っても人の倍は生きるが)な飛竜種にあって、天竜ほどではないが長い寿命を持ち、数多くの戦争を経験している飛竜の王。竜族の軍勢の切り込み役として不動の地位にあり、全盛期には空を覆い尽くすほどの無数の眷属たる飛竜を引き連れて現れ絨毯爆撃さながらに人の軍勢にブレスを浴びせかけ恐怖に陥れたという。
兵士長は今しがた自分たちを襲った飛竜が無数の眷属を従え、地表を焼き尽くす様がありありと想像できた。握った掌が恐怖でじっとりと湿り、体の震えが止まらなかった。
「幸いなことにその日ワイバーンロードは戻っては来なかった。それで私は生き残れたのだよ」
あたしは城壁の上に立ち、今は年老いてクラン・セントリオの職員として働いているかつての兵士長が少し遠い目をして語った話を思い出していた。
「来たぞ‼」
対竜カノンを指揮する騎士の声が聞こえた。ワイバーンロードは上空を旋回すると一気に高度を下げる。対竜カノンが一斉に火を吹た。それをヒラヒラと交わしながら城壁をなぞる様に飛んできた。聞いてきたあの日と同じ場面だ。あとはいつブレスを吐くのか。ワイバーンロードの喉が赤く発光する。
「隠れろー‼」
声が響くと同時に砲術兵たちは砲台の陰に逃げ込む。
城壁の縁に立っている相方に「気を付けて!」声を掛けると、女剣士は微笑んで頷いた。それだけみるとあたしも急いで砲台の陰に隠れる。ゴオオオオという音が城壁の端から近づいてくる。
女剣士は腕をクロスさせると腰の両脇から両手に1本、2本の剣を抜いた。視線はワイバーンロードから外さない。高速でワイバーンロードが迫ってきた。
「落ち着け、まだだ…まだ…」
充分にひきつけた所で女剣士はカッと目を見開く。
今だ!女剣士は高速で通過しようとするワイバーンロードに向かって飛びあがった。
ワイバーンロードは初めて自分に向かって飛んでくる人間を見た。初めて経験する意味の分からない攻撃に対応しきれず恐れを抱いて素早く飛び抜けようとスピードを上げた。
だが、まるでスローモーションのようだ。女剣士の体の下をワイバーンロードが放たれた矢のように鋭い形になって通過していく。女剣士は両手に持った剣をワイバーンロードの翼の付け根目掛けて突き立てた。
「グゥア」
短い飛竜の悲鳴が聞こえたあと、ガクンっと両腕がものすごい力で引っ張られる。
腕が千切れそうだ。必死になって剣を握り直すと、ゆっくり体を引き寄せる様にして近づけ、ワイバーンロードの背中に足を付ける。
「よし!乗ったぁ!」
翼が思う世に動かせないワイバーンロードは女剣士を振り落とそうとユサユサ体を揺らしながら、どんどん高度を落としていく。地面スレスレの所で女剣士は剣を引き抜くと横っ飛びに飛び下り、降り積もった雪の上をゴロゴロと転がり受け身をとる。ワイバーンロードは急降下の勢いそのままに雪煙を上げながら地面へと墜落した。